鉄骨造(S造)の建物では、鉄が熱に弱いという特徴を持っているため、鉄骨の構造体に何らかの耐火処理が必要になってくる、という話を前回は取り上げました。
これは万が一建物に火災が発生した際に、建物利用者が建物の外に安全に避難できるかどうか、という人命に関わるものですから、非常に重要な項目だと言えます。
そうした重要な要素ですから当然、建築基準法で厳密に定められているもので、設計者も施工者もしっかりと意識しておく必要があります。
鉄骨の耐火処理に関しては、フロアや部位によって求められる性能が少しずつ変わってきて、一時間耐火とか二時間帯かなどの区分が建築基準法で明確になっています。
建築関連の法律が分かりやすくなっているのか? というのは微妙なところで、分厚い法規を読んだことがある方であれば納得すると思いますが…
とにかく建築基準法でそのあたりが分かりにくいながらも明記されています。
求められる耐火性能によって、耐火被覆であればその厚みが、耐火塗装であれば塗装の仕様が変わってきますから、それをきちんと区分していくことが重要になってきます。
特に耐火被覆で気をつけなければならないのが、鉄骨に対して耐火被覆される分だけ最終的な外形が大きくなってしまうという点。
鉄骨のフランジ下端と天井との関係を考えた時に、天井下地が納まるかどうかぎりぎり、という天井高の設定が結構あると思います。
しかし実際には耐火被覆の分だけ鉄骨の外形は大きくなり、鉄骨下端レベルとしては下がる方向になりますし、鉄骨のジョイント部分ではさらに下がってしまいます。
なので、一般的な鉄骨下端だけを考えていると、実際には鉄骨のジョイント部分で全然天井が納まらない、ということになる場合も多いです。
耐火被覆というのは現場で吹き付ける種類のものですから、厚みが決められているとは言っても、ぴったりとその厚みにすることは難しいです。
性能が求められる種類のものですから、ぎりぎりを狙って足りなくなると大きな問題なので、どうしても「少し多めに」という気持ちで施工をしていく事になります。
そうなると当然、図面で計画していたよりも鉄骨梁の下端が下がっていて天井が納まらない、という状況になる可能性がある訳です。
そのあたりの施工精度を考慮して納まりを検討するのは施工者の役割で、設計者が設計段階でそこまで考える必要はないのですが…
結局最終的に納まらないのであれば、設計段階である程度そのあたりも考慮しておく方が良いのではないか、という気が個人的にはしています。
大雑把な話をしてしまうと、鉄骨の下端から150程度は天井を下げておかないと納まりとしては厳しくなる傾向にあって、100では本当にぎりぎりなのでお勧め出来ません。
とは言っても、現実としてはまず希望する天井高を設計図では設定しておくしかない、という事になるとは思いますが…
その後、施工者側が検討した結果として天井高を確保出来ないという話になって、仕方がないから天井を下げるかという話になる、という流れが一般的かも知れません。
結局最終的には天井高を下げることになる訳ですが、天井高が100mm程度下がったところで実際にはそれほど気になることはありません。
天井高が元々2100程度しかなくて、それが2000になるとかであれば話は別ですが、2700の天井高が2600になる程度では間違いなく気がつかないはずです。
気がつかないから天井の高さをどんどん納まりの都合で下げて良いのかというと、意匠設計者の立場からすると、そう単純なものではないのですが。
現実として納まらない場合も多いので、やむを得なく天井の高さを下げて調整していく事は、よくある話だと言えるでしょう。
このように、構造体の納まり、構造体に必要な処理によって最終的な仕上に影響が出ることは良くある話なので、事前の検討で上手く処理しておきたいものです。