□三次元CADの利用価値
図面による納まり検討や調整の重要性については先ほども書きましたが、納まりを検討する為の図面を作図するにはCADというツールを使う必要があります。
簡単に言うとCADは「コンピュータで図面を作図する為のソフト」という事になります。
水平垂直の線を正確に引く事が出来たり、小数点の単位まで正確な寸法をきちんと押さえる事が出来たり、その寸法を自動的に数値で表現することが出来たりと…
CADはコンピュータの得意分野を生かした非常に便利なツールで、図面を作図するツールとして今はもうなくてはならない存在になっています。
かなり昔の話になってしまいましたが、CADが普及する前までは人間の手で正確な図面を描いていたものですが、今は手描きをメインにすることは難しいです。
もちろん人間の手で表現する図面にも良いところがたくさんあるので、それぞれのメリットを生かして使い分けていく事がプロには求められますが。
そうしたCADの一歩進んだツールとして、三次元CADという存在があります。
三次元CADというのは、平面だけではなく高さ情報を持ったCADになっていて、平面的に作図するのではなく立体的に建物を造っていくという考え方になります。
きちんとモデリングが出来ていれば、好きなアングルから建物を眺めてみたり、切りたい部分で断面図を作成することが出来るとう強力なメリットがあります。
ただ、建物をコンピュータ上で自由に眺めたり、簡単に断面図を切る事が出来るようになるには、建物全体をしっかりと作り込んでおく必要があります。
そう言った意味では「断面図を簡単に作成」とは言い切れない部分もあるんです。
要するに膨大な手間がかかるという話で、建物の納まりを検討する為にそこまでの作業が必要になるのか、という問題が三次元CADにはついて回ります。
そこまでの労力をかけなくても納まりの検討は出来るし、必要な部分だけを断面図で作図すれば良いだけなので、三次元のモデリングは必須ではないんですよね。
今の時点で建築業界では三次元CADがいくつか普及していますが、通常の二次元CADに取って代わるような勢いがあるかというと、ちょっと微妙ではないかと思います。
二次元CADに比べて圧倒的に便利、というような状態になれば、手描きがあっという間にCADへと変わったのと同じくらいのスピードで三次元CADが普及するはずですが…
今現在そうなっていない事を考えると、三次元CADはまだそこまでの存在ではないのでしょう。
□施工誤差とクリアランスと施工スペース
図面上で建物の納まりを検討するにはCADを使う場合が多いのですが、CADを使うと非常に正確な図面を作図することが出来ます。
これはもちろん良い事なのですが、問題は「実際の建物はCADで作図した図面のように正確には出来ない」という部分ではないかと思います。
建物をこうしたいという図面はCADで作図することになりますが、実際に建物を造っていくのはあくまでも人の手です。
もちろん実際に建物を造る職人さんの技術は非常に高いです。
しかしそれでも人間の手で造るものと、コンピュータ上で作図される図面とは、完全にイコールにはならないものです。
これはもっと正確に建物を造らなければダメとかそういう話ではなく、人間の手で造る以上はそうした誤差が出るのは当然という話です。
だからこそ、CADで作成する図面によって納まりを検討する際には、この「施工誤差」がある事を頭に入れておく必要があります。
多少の施工誤差が出ても問題なく納まるようにするには、「クリアランス」と呼ばれる隙間を検討段階で計画しておくことが重要です。
あまり大きくクリアランスを取り過ぎるのは良くないですが、全ての材料が隙間なくびしっと納まるような事は図面上でしかあり得ません。
納まりを検討する際には、そうした現実を考慮に入れておく必要があるんです。
また、図面上ではクリアランスをしっかりと設けている場合でも「この狭いスペースでは工具が入らない」というような施工の都合も時にはあります。
建物では全ての材料が接着剤で固定される訳ではなく、色々な工具によってビスで固定したり、ボルトで固定したする場合が多いです。
そうしたビスで固定する為のスペースを考慮しておかないと、それこそ「絵に描いた餅」状態になってしまうので注意が必要です。
とは言っても、納まりを検討する仕事をする方は、実際に材料をビスで固定する作業をやったことがない場合がほとんどでしょう。
それは業務の分担を考えると仕方がない事なので、自分で施工をやってみるのではなく、どのようなやり方で実際の施工を進めるのかを知っておく事が求められます。
あまりにも実際の施工に詳しくなってしまうと、施工がやりやすい事を重視してしまうことになるので、それも少し困ってしまうのですが…
何事もバランスが大事だという事だと思います。