建物の構造が鉄骨造(S造)の場合、品質管理が行き届いた工場で製作してくることによって、構造体である鉄骨の品質を高い水準に保つことが出来ます。
また、工場での作業が増えるということはつまり、現場での作業が減るという事ですから、工期を短くすることが可能になるというメリットもあります。
こうして鉄骨造の大きな特徴を挙げてみると、鉄骨造はメリットがたくさんあって良い事ずくめなのではないか、という感じがしてしまいます。
それならば全ての建物を鉄骨造にしても良いのではないか、という気もしてしまいます。
しかし、鉄筋コンクリート造(RC造)の特徴を紹介した際にも似たようなことを書きましたが、何もかも完璧というものは世の中には存在しません。
強力なメリットを持っている鉄骨造であっても、その大きな特徴が原因で発生するマイナス面がやはり存在していて、結局は建物毎にどの構造が良いかを判断する事になります。
事前に工場で鉄骨を製作してくることによって現場での施工が少なくなり、結果として工期を短縮する方向で計画をすることが出来る。
これは非常に大きなメリットではありますが、この「事前に工場で鉄骨を製作する」という部分が大きなポイントになってきます。
事前に工場で製作する為には、当たり前の話ではありますが、事前に工場で製作できるように事前の検討が必要になってくる、ということなんです。
鉄骨というのは建物の骨組みですから、工事の順番としてはかなり序盤ということになります。
杭工事
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基礎工事
↓
最下階コンクリート工事
↓
鉄骨工事
↓
中間階床コンクリート工事
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外装工事
↓
内装工事
鉄骨造の建物の大まかな手順は上記のような感じになります。
建物の規模や地下の有無などによって条件は少しずつ違ってきますが、杭・基礎工事の段階で鉄骨の検討を完了して鉄骨の製作に入っておく必要がある訳です。
こうしたタイミングというのは、鉄骨の製作を急ぎたい施工者にとっても、外装などの仕上方針を決めなければならない設計者にとっても非常に厳しいスケジュールになってきます。
当然鉄骨を製作する為の日数もそれなりに必要になってきますから、鉄骨工事が始まる際には鉄骨の完成品が届いている、というスケジュール感で検討を進めなければなりません。
鉄骨を工場で製作する為には当然図面が必要になってくる訳ですが、図面にもいくつかの種類があって、最終的にそれら図面が一通りまとまってから製作開始です。
図面は大きく分けて「一般図」「詳細図」となっていて…という話はいずれ詳しく説明しますが、最終的には柱一本とか梁一本につき図面を一枚作図、ということになります。
それはもう膨大な枚数の図面になってくるので、それらを全て非常に早い段階で作図してまとめていくのは本当に大変な作業なんです。
最終的な仕上材を取り付ける為に、鉄骨に何かを仕込んでおく必要があるかどうか…
というあたりを細かく検討していく必要があるのですが、じっくりと検討するには時間が足りない場合が多く、ある程度見切発車的な判断をする場合もあります。
これは施工者側の考えになりますが、ある程度時間をかけて鉄骨の検討を深くやっていくか、まずは構造体として成立している事で製作を開始してしまうか、という判断があります。
設計者の立場から考えると、充分な検討期間を設けた工事工程を望むのは当然のことなのですが、竣工引渡しの予定は施主も絡んで決まっているので難しいところです。
もちろん時間をかけてじっくり検討した方が良いに決まっていて、出来上がる鉄骨は間違いない状態に近づくのですが、鉄骨の製作開始が遅くなってしまいます。
鉄骨の現場搬入ありきで急いで図面を進めると、検討が完全ではない状態で鉄骨の製作を開始することになりがちで、そうなると仕上工事に入った時に色々困ることに。
実際にはその両極端な状況はまずいので、出来るだけ検討を進めつつ、現場搬入の日付もずれ込まないようにしつつ、といういいとこ取りを目指す感じになります。
できる限り現場での手戻りが少なくなるような対応をしつつ、工期をずらさないように鉄骨の図面をコントロールするのは非常に難しいです。
「こうしておけば後で何とかなる」というような鉄骨の対応をしておくには、鉄骨造の様々な納りをしっかりと分かっている必要があります。
そうなると、施工者側で鉄骨を担当するのは、ある程度の経験を積んだベテランになることが多い、というのは自然なことなのだと思います。
逆に考えると、図面での事前検討がしっかりと出来ていれば、鉄骨造の建物は非常にスムーズに進むことになる、とも言えます。
限られた時間の中でどこまで検討を進める事が出来るか、という部分が大きなポイントになってきますが、施工者としての腕の見せどころでもあるので挑戦しがいがあると思います。