さて、鉄骨造(S造)の特徴について今まで色々と取り上げてきましたが、鉄骨造にした場合どのようなことになるか、何となく雰囲気は掴めたでしょうか。
良いところもあるしそうでもない部分もある、というのは鉄筋コンクリート造(RC造)と同じで、建物の特徴にあわせて構造を選定していくことになる訳です。
ただ、構造毎に違ってくる特徴などを掴んでおくことは確かに重要ではありますけど、そうした話だけで終わってしまうと実際の仕事では少し困ってしまいます。
解説している私としてもそれでは困る、と言うことで、今回からは鉄骨造の具体的な納り関係の話に進んでいこうかと思っています。
まずは鉄骨の足元について。
鉄筋コンクリート造の解説をしている際にも少し触れましたが、鉄骨造とは言っても建物の基礎部分についてはどうしても鉄筋コンクリートで構成することになります。
鉄骨は当たり前ですが鉄で出来ていますから、水にはあまり強いとは言えず、常に湿気を含んでいる部分にはあまり適さないんです。
駅のホームなどを気にして見てみると、鉄骨が露出している場所が結構あることが分かりますが、そういった部分はきちんと塗装がされているはずです。
もしくは塗装が少し剥がれて若干錆びている場所もあるかもですけど…
外部に面する部分に鉄骨が絶対NGという訳ではありませんが、さすがに地面に直接触れる部分については、鉄骨ではなく鉄筋コンクリートが採用されることになります。
地面に接する部分を鉄筋コンクリートで構成して、その上に鉄骨を載せることになる訳ですけど、具体的にはどのような納りになるのかというと…
こんな感じです。
もちろん鉄筋コンクリートで造った基礎の上に鉄骨を載せるだけではなく、アンカーボルトと呼ばれる部材を使ってしっかりと鉄骨を固定してあげる必要があります。
アンカーボルトというのはこのような部材です。
これを鉄筋コンクリート造の構造体に埋め込んでおいて、ボルト固定出来るくらいの寸法だけコンクリート面から出しておきます。
そのボルト位置に対応するように、鉄骨にはベースプレートと呼ばれる穴の空いた部材が柱の一番下に取付けられていて、このように固定されます。
鉄骨の柱にかかる垂直方向の荷重に関しては、載っているだけ(というのは少々表現が荒っぽいですが…)でコンクリートの基礎に伝達されます。
しかし鉄骨柱が倒れようとする方向の力に対しては、埋め込まれたアンカーボルトによって抵抗する、というような考え方になります。
柱が倒れようとする力がかかった場合、その方向がどちらであっても、アンカーボルトには引き抜かれる方向に力がかかります。
アンカーボルトの先端にフックが付いているのは、そうした引き抜き方向の力に抵抗する為で、どの程度の長さを埋め込むのかを構造図で指定しているのも同様の理由からです。
こうして納めることによって、鉄筋コンクリート造の基礎と鉄骨造の柱を構造的に一体として考える事が出来る、ということになります。
ただ、この納りは本当に基本的なパターンであって、仕上との関係などによって様々なパターンに変えていくなどの検討が必要です。
例えば鉄骨柱をそのまま最終仕上として見せたいという納りであれば、上図のような納りではベースプレートとアンカーボルトが露出してしまうので、意匠的にはNGでしょう。
そうした場合は、基礎のレベルをあらかじめ下げておき、ベースプレートのレベルを下げて埋め込んでしまうようなことを考えておく必要があります。
上図で鉄筋コンクリート造の基礎レベルを下げたのは、鉄骨柱を構造体の中に埋め込むことはあまりしないからで、これによって杭のレベルが変わるなど様々な影響があります。
鉄骨という構造体の納り検討であっても、結局は最終仕上が美しく見えるように、という考え方で様々な調整をしていくことになる訳です。
前回でも同じ話を取り上げましたが、こうした細かい調整を施工のスタート段階で一通りやっていくのは、建物の規模によっては大変な作業になってきます。
構造設計者は建物の構造について設計をしている訳で、それが最終仕上から出てしまうかどうかというあたりの細かい検討までは出来ていません。
そういった意味で、構造図通りに鉄骨を製作するというのは非常に危険なことで、最終仕上げを意識しながら細かく調整をしていくのが施工者の役割ということになります。
設計者はそうした検討結果を盛り込んだ鉄骨の図面をみて、意匠的な意図に沿っているかを確認していき、製作しても問題ないかの判断をしていきます。