設計者でも施工者でも、自分が今まで経験してきた建物の納まりを参考にして、今関わっている建物の納まりを決める場合があります。
以前やった納まりが綺麗に出来たから、今回も同じような部分でその納まりを採用したいとか、そうした考え方をする事は結構多いと思います。
これは納り検討をする側の経験からくるもので、それが上手くいったから今回の建物でも採用したい、という気持ちにになる訳ですから、結果も悪いものにはならない場合が多いです。
「いつもの納まり」と言えるくらいになると非常に簡単な感じになってしまうので、そこまでになってしまうと、ちょっと面白みには欠けてしまうかも知れませんが…
それでも、自分の中で「これは簡単でしかも綺麗に見える」というような納まりのバリエーションを持っておくことは、建築のプロとして非常に重要ではないかと思います。
自分の頭の中に納まりの引き出しがたくさんあると、その場その場に適した綺麗な納まりを提案することが出来るようになります。
もちろんその案が出ただけで決定という話にはなりにくいのですが、色々な案が出ればその中から良い案を選定することも出来るので、選択肢が多いのは良いことなんです。
そう言った意味では、納まりのパターンを自分の中で色々と持っておく事は、最終的に美しい建物を造っていく為に必要なことだと言えるでしょう。
ただし…
特に建物のデザインなどを考えていく意匠設計者であれば、「他の建物の納まりを参考にする」という事を避けたいと思うかも知れません。
他の建物を真似するのではなく、この建物オリジナルで色々と考えたい、という思いが特に設計者にはあるのではないかと思います。
考えなくて済むから楽という理由で「前と同じ」を繰り返すのは、やはり建築のプロとしてあまりにも進歩がないという事になるかも知れません。
なので、こうした考え方は決して間違っている訳ではなく、設計者としてまっとうな考え方を持っていると言えるでしょう。
ただしそうは言っても、そのような考え方で設計をしていくと、他の建物の納まりを参考にしてデザインを進めていくのは難しくなってしまいます。
この納まりはあの建物と同じだからダメで、こうすると別の建物と同じになってしまい…みたいなことをやっていると、多分どのような納まりも選定出来なくなると思います。
それはさすがにちょっと主旨が違う感じがします。
既に完成している建物はそれこそ膨大な数があって、それらの建物と同じ納まりにならないようにする、というのはやはり無理がありますよね。
それに、他の建物にある納まりはNGという基準はその建物の事を考えている訳ではなく、単純に「他の建物にないやり方」を選んでいるだけです。
今設計している建物にとって良いのか悪いのかを考えているのではないので、設計としてそのような考え方で設計をするのはあまりお勧め出来ません。
同じ納まりが良いとか悪いとか、オリジナルの納まりが良いとか悪いとか、そうした考えではなく、その建物にとって良いか悪いかを考えた方が良いという話です。
という事で、色々と書いてきましたが…
結果的に他の建物と同じ納まりになったとしても、今設計している建物にとって良いのであれば、それは同じ納まりでも全然問題ありません。
むしろ同じ納まりなのかどうかを気にするよりも、その建物にとってはどうなのか、という点を重視して考えていく事が重要です。
という事をここでは伝えたかったんです。
何も考えずに、以前設計した建物と同じ納まりを採用する、というのはやはり検討が足りないと言われても仕方がないと思います。
しかし色々と検討した結果として、他の建物でも採用されている納まりと同じになった、という事であれば全然話は違いますよね。
そのあたりを考えながら、今まで経験してきた納まりを採用するなどの選択をしていくのが、効率を考えると良いのではないかと思います。