建物の納まりを検討する業務は、色々な役割分担が細分化された現在では、図面業務を専門におこなう方が担当する事になる場合が多いです。
そうなると現場の施工をあまり知らない方が図面をまとめる事になる可能性がある、というような話を前回は取り上げてみました。
これは大いなる矛盾ではありますが、役割分担という観点から考えると、ある程度仕方がないというか自然な事だということなのでしょう。
こうした組織で動いている現場も多いと思いますが、それでも建物は建っている訳ですから、問題はありつつもそこまで致命的ではないのかも知れません。
当サイトでは、どのような立場で建築の仕事に携わっているかに関わらず、ある程度納まりの知識を持っておいた方が仕事として有利ではないかと考えています。
建築関連の仕事をするのであれば、専門の知識があった方が間違いなく有利という考え方で、色々な部分の納まりについて断面図を交えながら説明をしている訳です。
こうした知識がどのように役立っていくかは、やはりどのような形で建築に関わっているかによって少しずつ違ってくるとは思いますが…
少なくとも知識があって損をするという事はありませんので、出来る限りの知識を持っておいた方が良いはず、という考え方を持っています。
納まりの知識を蓄えていく中で重要なのが、現場で実際に施工をする際には、検討した図面の通りぴったりと納まる事などない、という話。
要するに人が作業するものですから、施工する際の誤差を考えておく必要があるという話で、それを納まり検討図にも盛り込んでおく事が重要になってきます。
もう少し具体的な話として、例えば外壁の鉄筋コンクリート壁に対して内側の壁をどのように納めるかの検討をする場合について考えてみましょう。
基本的な鉄筋コンクリート壁の納まり断面図は下図のような感じになります。
鉄筋コンクリートの室内側には断熱性能を確保して結露を防止するために、発泡ウレタンなどの断熱材を吹き付けておくことになります。
吹き付ける厚みによって性能が変わるので、設計図では厚み20mmと規定していたとすると、断熱材まわりの納まりは図面上このようになります。
図面上の納まりという言葉を使ったのは、実際には上図のようなギリギリの関係では納まらない場合がほとんどだからです。
断熱性能を確保する為に20mmという決められた厚みがあるのは分かるのですが、実際には20mmちょうどで施工が出来る訳ではありません。
断熱材を吹き付けるやり方を考えてみるとそれは分かるのですが、吹きつけをする速度によって厚みが少しずつ変わってくるので、ちょうどは非常に難しいものがあります。
さらに、性能を確保する為の最低厚さが20mmという事になるので、当然20mm以下にならないように施工をする必要がある訳です。
厚みがコントロールしにくい事もあるので、ギリギリを狙って20mm以下になってしまうよりも、25mmを狙った方が安全だし結局は効率が良い。
こうした考え方になっていくのは当然でしょう。
しかし図面上で表現するのはあくまでも発泡ウレタン吹付20mmという表現。
これを分厚く表現するのはやはり図面としてはおかしいので、求められる性能の絵を図面では示していくしかありません。
図面上の表現と実際の施工との間には、このように微妙な違いがあるんです。
それならばどうすれば良いのかと言うと…
図面上ではやはり断熱材の厚みを20mmでしか表現出来ないのですが、ある程度厚く施工されることを想定して、LGS下地とのクリアランスを大きくしておくことになります。
先ほどの図面で表現するとこんな感じですね。
施工誤差や施工のやり方による精度はどんな場合にもありますから、それをどこかで吸収していくような納まりを描いていく訳です。
今回の話はあくまでも一例ではありますが、施工精度を見越して納めるという今回と似たような話は各所にあるはずです。
納まりを検討する側も、実際の施工がどのように行われるのかを知っておく必要がある、というのはそうした意味があるからです。