建物を設計する際には、今まで関わってきた建物の経験を生かして、以前検討した納まりと同じ納まりを選定していく場合があります。
これは決して「真似」というような次元の話ではなく、検討した結果として同じ納まりを採用する、という事が重要になってくる。
というような話を前回は紹介しました。
今まで建物を建ててきた企業や人が蓄積している技術や知識があって、そうした知識があるからこそ選定されてきた納まりというのは間違いなくあるはずです。
それを無視して完全にオリジナルの納まりを各所で採用するのは、やはり効率などを考えるとあまりお勧めする事は出来ません。
かと言ってすべてが今までの建物と同じではちょっと…という気持ちも分かるので、そのあたりはメリハリをつけて考えていくのが良いと思います。
あまり意匠的に問題ない部分については「いつもの納まり」を採用して、ちょっとメインになる部分には色々な検討をしていくなど、やり方は色々あるはずです。
建物のメインとなる部分であっても、色々検討した結果として、別の建物とちょっと似てくるような場合も当然あるでしょう。
それが似ているからダメという話では全然なくて、その建物にマッチしているデザインであれば、その納まりが建物にとってはベストなんですよね。
これは設計者だけに言える話ではなく、施工者にとっても同じような事が言えます。
今までの建物で納めてきた施工方法というのは、恐らく施工者として長年経験してきたものをベースにして選定してきたやり方が多いはずです。
なのでまずはそうしたやり方を選定することを前提として考えていく事が基本。
しかし、技術というのは常に進歩しているものですから、いつまでも以前と同じやり方をしていると、周囲の進歩に対して相対的に遅れをとってしまうことになります。
それではやはり困るので、今までと同じやり方で効率よく施工を進めつつも、時にはもっと良い施工方法や納まりがないかを考える、という感じです。
これはそれほど簡単な事ではありませんが、そうやって仕事の効率と改善を進めていかないと、プロとしての技術で遅れてしまうことになってしまいます。
そうならない為にも、ちょっと相反する事だとは思いますが、時にはいつもの納まりを見直してみることも必要になってくると思います。
今までの経験を生かして納まりを決めるというやり方と、今までの経験を生かしてさらに違う納まりを考え出していく事。
結局は経験してきた事を生かしていくしかない訳ですけど、それぞれ少しずつ違うやり方を使って仕事をしていく事がプロには求められるんです。
そうした仕事をする為に助けになるのが、今まで経験してきた納まりなどを図面に落とし込んで取りそろえておく「標準図」の存在です。
例えば床仕上材として、石の納まりは今までこうやってきたとか、巾木との関係ではこんな納まりで検討を進めたとか…
その結果としてこのような出来上がりになったとか、そうした資料を少しずつ紙とデータで積み上げていくと、後々の仕事で非常に役立つはずです。
こうした資料は会社が社員の為に用意している場合も多いです。
社員の知識やスキルが高まると言うことはつまり、会社の力が高まるという事ですから、企業としてそうした資料を作るメリットは結構あると思います。
ただ、もし会社でそのような標準図関連の資料を作っていたとしても、自分用の標準図を自分で作成してみることを当サイトではお勧めします。
やっぱり与えられた資料と自分で苦労して作った資料とでは重みが違いますし、資料を作っていくという意識を持っていると得られる情報は違ってくるものですから。
そうした資料は自分の頭の中にある、という方も中にはいると思います。
そのような考え方は、私にもよく分かるので、それでも良いと書きたいところですが…いざとなると頭の中にある知識を正確に素早く取り出すのは難しかったりするんですよね。
自分の中にある知識を整理するという意味でも、やはり自分の頭の中だけではなく、紙で標準図の資料を作っていく事をお勧めします。