前回は壁を石にした場合の具体的な納まりとして、金物にダボピンを付けて石に上下を固定していく納まりを紹介しました。
その際には金物を二種類使用して、前回の例で言えばC型鋼にプレートと引き金物を取り付ける事で、壁下地の精度を仕上面に出さないように工夫をしていきます。
こうした出入りの調整は施工をしていく上で非常に重要なポイントになっていて、この精度調整の計画が上手くいかないと最終的な仕上は綺麗には納まりません。
これは石の納まりだけに限った話ではなく、あらゆる場所で同じような話になってくるはずです。
こうした納まりを「逃げを見ておく」などと言ったりしますが、これは建築関連の納まりを検討する上で非常に重要なポイントだと言えるでしょう。
鉄筋コンクリートであっても鉄骨下地であっても同じ話で、壁下地が完璧な精度で施工されている事は非常に少ないというか、ほぼ皆無と言っても良い状況です。
なので、こうした出入りの調整が出来るような納まりにしておかないと、壁下地の精度がそのまま壁仕上材の精度になってしまい、あまり綺麗に壁が出来上がらない事になってしまいます。
石壁の納まりパターンは上図のようなパターンだけではなく、金物の形状なども含めて色々バリエーションがあるものです。
しかし基本的な考え方はほぼ変わらず、壁下地の精度が悪くても、それが壁仕上面に影響されないような考え方になっているはず。
CADで作図した図面で検討をする場合、いくらでも精度良く作図していく事が出来ますが、実際にはそこまでの精度で施工が出来る訳ではありません。
とは言っても、CADで精度悪く図面を描くのは非常に難しくて、そのような描き方をするには非常に時間がかかってしまう上、あまりそうした表現は役に立ちません。
なので、検討をする際には、図面上は精度良く作図をしていくことになりますが、どこかで調整出来る部分を作っておくことが重要になってきます。
こうした施工精度による逃げを見ておくのは施工者の役割で、設計者としてもそうした事情があることはきちんと理解しておく方が良いと思います。
ただ、あまりにも余裕を見過ぎる傾向にある施工者も中にはいるので、どこまでが適正な「逃げ寸法」なのかを意識することも重要です。
精度を良くしようと思って頑張って施工をしても完璧な精度にはならないものです。
それを、別に後で調整するから大丈夫、という気持ちで施工を進めた場合、結果として非常に精度が悪い状態になるというのは何となくイメージ出来るのではないでしょうか。
ゼロを狙って丁寧な施工をした結果として10mmのズレになるのだとしたら、±10mmくらいは良いかと思って適当な施工をしたら、間違いなく±20mmという精度になるはず。
人間の気持ちというのは残念ながらそういうものです。
いい加減な施工をすることによって発生する精度の悪さをを吸収する為の逃げ、というのはやはり考え方としてはちょっと違いますし、施工のプロとしてもこの考え方はNGでしょう。
人が施工をするものですからある程度は逃げが必要な事は間違いありませんが、その施工精度の悪さを全て吸収するような納まりには出来ない、という話でした。
これはまあ当たり前すぎる話ですから、ここで私が何度も繰り返すような事でもありませんが…
施工精度を吸収する考え方の納まりについて説明をしたからには、この考え方もあわせて書いておかないといけないと思って書きました。