前回は意匠図を構成する図面の基本パターンを紹介しましたが、今回からはそれらの図面についてもう少し詳しく説明していこうと思います。
具体的な作図方法について触れるのはなかなか難しいものがあるので、ここではそれらの図面がどのような役割を果たしていくのかを紹介していきます。
まずは意匠図の冒頭に入ることになる特記仕様書から。
○特記仕様書
特記仕様書というのは線や図形で構成される設計図の中で少し変わった存在で、基本的に全て文字による説明で構成されています。
どのような事が表現されているかというと、平面図や詳細図などの図面ではなかなか表現しきれない性能とか仕様などの情報です。
こうした情報を特記仕様書の中でビッシリと記入していく事になります。
特記仕様書については以前も少し話の中で取り上げましたが、文字情報だけがひたすら記載されているというのは読む側にとっては結構つらいものがあります。
とは言っても、特記仕様書がない状態で施工を進める事を考えると、それはそれで情報が足りないのでつらいものがある。
整合がとれているのかという問題があるものの、やはり設計図に記載されている情報というのは多い方が良い訳です。
そう言った意味では、特記仕様書というのは文字だけではありますが、情報の宝庫という感じの図面になるので、やはり必要な図面だという事が言えるでしょう。
特記仕様書をどのように活用するのかについてここで例を挙げてみると…
床にタイルカーペットを採用する場合を考えてみると、例えば事務室の床仕上材にタイルカーペットを使う場合であれば、それは内部仕上表で表現していく事になります。
表の構成は設計事務所の書式によって色々な形がありますが、記載されている内容は以下のようなものになるはずです。
2階 事務室
床:タイルカーペット(A) t=6.5
巾木:軟質ビニル巾木 H=60
壁:EP
天井:GB12.5+岩綿吸音板9
これらの表記で事務室の仕上がどのようなものになるかは分かってきます。
ただし問題がひとつあります。
タイルカーペットというくくりの仕上材にも様々なグレードの商品があって、そこまでは仕上表で読み取ることが出来ない、という点です。
カタログを見ると分かるのですが、タイルカーペットの単価は1㎡で5000円程度の商品もあるし、15000円になる商品もあるんです。
それらをまとめて「タイルカーペットを床に貼ります」と意匠図で表現しても、どのグレードの商品をコスト的に見込んでおけば良いのかが分かりません。
設計者の立場で考えると、上記の例に出したような事務室であればそれほど高級感のある商品は不要になるので、スタンダードタイプの商品で良いと考えます。
しかし例えばホテルのラウンジなどでタイルカーペットを採用する場合には、それなりにグレード感のある商品を選定したいところです。
そうしたグレード感までを内部仕上表で表現するのは難しい為、特記仕様書でそのあたりのニュアンスを表現する事になります。
タイルカーペット(A) : 東リ GA-400程度
タイルカーペット(B) : 東リ GX-2800程度
という感じで特記仕様書に書かれていれば、商品を確定する訳ではありませんが、グレード感はこれで分かるのでコストを見込んでおくことが出来るんです。
このように表現しておく事で、後からコストが合わないから選定出来ない商品がある、というようなトラブルをなくしていく訳です。
コストやグレードをある程度限定しておく事は、設計者にとっても施工者にとっても必要な事になるので、そう言った意味で特記仕様書は重要な図面という事になります。
問題があるとすれば、こうしたコストに関わる重要な内容がさらっと一行とかで終わっていて、そうしたシンプルかつ重大な内容が何ページにも及ぶという部分でしょう。
特に設計図を見てコストをはじいていく施工者側にとって、この特記仕様書は一行たりとも見逃すことが出来ない重要な情報だという事が言えます。