前回はひび割れ誘発目地が性能を発揮する為に必要な条件と、その場合の具体的な納まりについて説明をしました。
欠損率20%以上を確保するというのは、実際に検討をしてみると目地だけではどうにもならない場所が多いので、施工者であれば結構苦労をするのではないかと思います。
誘発目地が確実に機能するかを確認しながら検討していくのは結構面倒で、さらに仕上の事を意識して位置を決めていく必要もあるのでなかなか大変なんです。
とは言っても、この誘発目地がきちんと入っていないと、後々ひび割れが思わぬ場所に発生するなどでもっと大変になるので、しっかりと計画していくしかありません。
ちょっと「面倒」とか「大変」とかネガティブな事を書いていますけど、プロの仕事というのはこうして重大だけど実際の作業としては地道で手間がかかる、というものが多いです。
私は建築業界でしかこうして深く突っ込んで仕事をした経験はありませんが、恐らくどのような職種であっても地道で手間がかかるけど重大な業務というのはあるのだと思います。
これから建築関係の仕事に就こうと考えている方がこれを読んでくれていたら、こうした地道だけど重要な業務を積み重ねて建物が出来上がる、という事を覚えておいて欲しいです。
確かに「外壁の仕上を何色にするか」みたいな業務の方が分かりやすくて楽しいですし、結局誘発目地はこうした仕上材に隠れてしまうことになるのですが…
建物を構成する要素として、意匠的な部分で外壁の仕様も確かに重要ですが、建物の性能を確保するという業務はそれ以上に重要なものですから。
…と、少々話がそれてしまいました。
ひび割れ誘発目地の納まり検討については、先ほども書いたように主に施工者側の検討になりますけど、意匠設計者としても目地の位置は気になるものです。
完全に隠れてしまうにしても、外壁の納まりによっては仕上を意識して目地の位置を決める必要があるので、やはり施工段階で設計者と施工者とで調整をしていくことになります。
と言うことで今回は、ひび割れ誘発目地の位置を決めるにあたり、最終的な仕上との関係がどのようなものになるのか、というあたりについて考えてみたいと思います。
まずは外壁の仕上材によって誘発目地の位置が少し変わってくるので、外壁仕上で割と採用されるパターンを幾つか挙げてみます。
・タイル
・石
・金属パネル
・コンクリート化粧打放し
建築の仕上材は色々とありますから上記の4種類で全部を網羅したとは言えませんが、割合として多いのはこれらの仕上材ではないかと思います。
コンクリート化粧打放し仕上以外の仕上は、コンクリートに対して別の部材を貼っていくという考え方になるので、結局ひび割れ誘発目地は仕上材の裏に隠れてしまいます。
そう言った意味では、ひび割れ誘発目地の位置は意匠的にあまり気にしても仕方がない、ということになってしまう気もしますが…
基本的な考え方として、ひび割れ誘発目地には最終的にシーリング処理をすることによって、例えひび割れが発生した場合でも、水がコンクリートの中に入る可能性を減らしているんです。
シール処理をした後ではこのような状態になります。
こうした納まりになるという事は、特にタイルなどコンクリートに直接仕上材を貼るような場合に、ひび割れ誘発目地の位置が非常に重要になってきます。
特に外壁仕上材について考えずにひび割れ誘発目地の位置を決めた場合、ほぼ間違いなく下図のような状態になると思います。
これはダメな例です。
これで何がダメなのかというと、シールの上というのは基本的にタイルを施工する為のモルタルを塗ることが出来ないので、誘発目地の部分でタイルが剥がれてしまう危険があるということ。
仮に7階建ての最上部でタイルが剥がれてしまった場合、下に人がいると考えると大惨事になることが容易に想像出来ますよね。
このあたりの話は次回にもう少し続きます。