前回はひび割れ誘発目地の基本的な考え方と、ひび割れ誘発目地を具体的にはどのあたりに入れるのかという話を取り上げました。
ひび割れが入りやすい部分に誘発目地を入れることによって、ある程度狙った位置にひび割れを発生させることが出来る、という考え方でした。
もちろん具体的なひび割れ誘発目地の位置は、表面の仕上材が何なのかによって変わってくるものですから、仕上との微調整が必要になってくるのは間違いありませんが…
具体的にひび割れ誘発目地の納まりがどのようなものか、構造的な考え方とあわせて説明していくことにします。
まずはひび割れ誘発目地の基本的な形状から。
ひび割れ誘発目地はこのような形状のものを指しています。
この溝形状の部分を「目地」と呼び、コンクリートを打設する際に「目地棒」と呼ばれるものを型枠に付けておくことで、このような溝を作ることが出来ます。
目地棒はこんな感じの商品で、場所によって使い分けが必要になったりするので、様々なサイズの商品が用意されています。
こうして目地棒で作った目地に、計画的にひび割れを誘発させることから、ひび割れ誘発目地という呼び方になっているんです。
まずはこの目地部分にひび割れが確実に入るようにする事が重要になってきます。
ひび割れを誘発させるという目的を果たすことが出来なければ、わざわざ目地を入れる意味がないのでこれは当然のことですよね。
ただ、溝の深さが壁に対して影響力があるくらいの割合になっていないと、狙った場所にひび割れはきちんと入ってくれません。
コンクリートが乾燥していく際の収縮で、この誘発目地に狙い通りひび割れを誘発させるには、壁の厚さに対してある程度の目地深さが必要になってきます。
目地の深さをAとし、壁の厚さをBとした場合、A/Bの割合が20%以上になるような目地の深さ、というのが一般的な誘発目地の考え方です。
ただしここで注意しておきたい点がひとつ。
コンクリート壁に対して一定の割合で目地が必要とは言っても、構造図に示されている壁の厚さは確保しておかなければならないんです。
なので、目地を入れるとしても壁の構造体の厚さは確保しておき、目地の深さ分だけ増し打ちするというような考え方になります。
図にしてみるとこんな感じ。
点線で描かれたラインが実際の壁の構造体になっていて、その外側にある20と寸法が記入された部分は増し打ちで、そこに目地を入れているという考え方です。
コンクリートに目地を入れたり欠き込みを入れたりする事自体は、仕上の納まりを意識するとどうしてもやりたくなってしまうものです。
しかし構造体は建物の荷重を支える為の重要な部材ですから、仕上の都合でその大きさを削ることは出来ないんです。
これは壁であっても柱であっても梁であっても同じですから、今後各所納まりの検討をしていく際には気をつけておきたいところです。
以前スリーブについての説明をした際にも、事前に位置を決めて開口補強をする必要がある、という説明をしましたが、単純に穴を開けるだけでは構造体としてNGだから補強する訳です。
ひび割れを誘発したい部分に目地などを入れ、コンクリートの厚みを薄くしてひび割れを誘発する訳ですが、どれだけ薄くしたかの割合を「欠損率」と呼びます。
欠損率は先ほどの例で言えばA/B×100になるので、欠損率が20%以上あればひび割れ誘発目地として成立することになる、というのがまずは基本ルールになります。
具体的な数値で挙げてみると、目地の深さが表20と裏20で合計40、壁の厚さが190の場合は40/190なので欠損率は約21%となり、この場合は条件を満たしていることに。
しかし目地の深さが同様に40でも、壁の厚さが240になってしまった場合には、40/240ですから欠損率は16.7%程度となってしまいNGです。
NGならば目地の深さを大きくすれば良いのでは?
…と思ってしまいますが、先ほども紹介したように目地棒の商品ラインナップには限りがあるので、目地を自由自在に深くしていくのは難しく、別の手段を考えていく必要があります。