建物を施工していく中で、色々なプランや仕上材などが決まっていない状態だと、施工を進めてもやり直しになってしまう可能性があります。
そうした手戻り的な作業はお金と時間の無駄になってしまうので、出来るだけそうした無駄をなくしていく事が施工者としては重要になってきます。
しかし設計者の立場で考えると、工程表通りの施工を進めていく際に、施主の要望などがまだ出ていなかったりなどで色々と決まらない状況になる場合も多い。
そうした施工者と設計者の立場の違いがあって、それによって施工が円滑に進まなくなる可能性も結構ある、というような話を前回はしてみました。
これは別に設計者が施工者の邪魔をしているなどの話ではないですし、施工者が設計者の思惑を無視して施工を進めたいと思っている訳でもありません。
少しずつお互いに重要視している事や業務が違っている中で、どうしても発生してしまう、施工段階での問題点だと言えると思います。
こうした「施工をしたいけれど方針が決まっていない」という状況は結構あるので、それを以下に少なくしていくかが施工者の業務になっていきます。
出来るだけ早めに納まりを決めていき、その考え方を設計者と情報共有する為には、建物の最終形のイメージをお互いに共有することが重要になってくるのですが…
建物の最終形について設計者と施工者が同じものを目指している、という共通認識を持つ為には、手描きの簡単なスケッチを利用するのが効果的です。
今回はそうした「簡単なスケッチ」について色々考えてみることにしましょう。
設計図では建物の基本的な方針を示す為に色々な図面を用意しますが、それはあくまでも平面的な情報でしかありません。
もちろん断面図や展開図も用意するのですが、高さ情報を盛り込んだ断面図であっても、そこに奥行きがない以上は立体情報とは言えません。
平面図に対してこのような断面図がある、というような形で情報を補完する事によって、その建物がどのようなイメージになっているかを知っていく、という感じです。
しかしそれでは情報の伝達が不充分なので、設計者は建物のイメージを伝える為に「パース」と呼ばれるイメージ図を大抵の場合は用意します。
これは施主の為に用意する資料ではありますが、もちろん実際に施工をする施工者にも建物のイメージが正確に伝わった方が良いので、パースは施工者にも配布されます。
こうしたイメージ図を用いる事によって、設計者と施工者とで建物の完成形情報を共有することになる、という流れになります。
ただ、こうしたパースはあくまでも「意匠的に頑張りたい部分」を重点的に作成する事になって、建物すべてを網羅する事は難しいという現実もあります。
とは言っても、建物の納まりは意匠的に頑張りたい部分だけではなく、もっと一般的でパースを作成しないような部分でも検討が必要になってくるのですが…
そうしたパースがない場合でも、手描きで簡単なスケッチを作成する事で、設計者と施工者とで共通認識を持つことが出来るようになります。
作図するのは設計者でも施工者でも良くて、さらに言えば数値などの関係性が完全ではなくてもそれ程大きな問題にはなりません。
もちろんあまりにもスケール感の違うスケッチでは、建物の最終形をイメージする事が出来ないので、ある程度の精度は必要になりますが…
お互いに「この部分は最終的にこのようなイメージになる」という認識を、簡単なスケッチによって得る事が出来れば、そこには大きなメリットがあるはずです。
設計者がスケッチを作図するのは「ここはこんなイメージで仕上げたい」という要望がある場合で、それを施工者に伝えるという目的があります。
逆に施工者がスケッチを作図する場合は「設計図によるとこのようなイメージになりますが、問題ありませんか」という確認を取る目的があります。
どちらの目的であっても、スケッチには大きな効果があるので、納まり検討に携わる場合にはこうしたスケッチを作図出来るようになる事をお勧めします。