前回は天井まで伸びている鋼製建具枠に対して、コ型廻り縁をどのように納めるのが綺麗かという話を取り上げてみました。
建具枠部分には廻り縁をまわさない方がシンプルに納まるので、その方向で検討を進める事を当サイトではお勧めしますが…
建具枠のチリとコ型廻り縁の見付との関係には少々注意が必要、という話でした。
建具のチリなどの納まりに関しては、意匠設計者と施工者とで意見が異なる場合が多いので、そのあたりの話をいずれ細かく取り上げてみたいと思っています。
さすがにチリ0mmという話は選択肢にもならないので、出来ればそのような議論をする無駄は避けたいところです。
…と、文句ばかり書いてもあまり説得力がないので、今回は廻り縁の納まりとは関係のない話になってしまいますが、建具枠のチリについて少し書いてみましょう。
さんざんダメと書いてきた、建具枠のチリを0mmにするのがダメな理由は色々ありますが、その代表的な理由を3つ挙げてみます。
・施工精度の問題で壁面の方が出てしまう可能性が高い
・建具枠は鉄板を曲げて納めるので角が若干Rになる
・巾木を止める相手がいなくなる
意匠設計者としては「また施工精度の話か…」と思ってしまうかも知れませんが、それだけではないので、まずは一通り読んで頂けると嬉しいです。
□施工精度の問題で壁面の方が出てしまう可能性が高い
まずは施工精度の話になりますが、LGS下地+石膏ボードの壁でも、石膏ボードと石膏ボードの間には若干の隙間が出来てしまいます。
それこそ1mm以下の世界の話になるのですが、それでもチリが0mmであれば、例えば0.5mmだけ壁面が出てしまっても非常に目立つというか汚い納まりになってしまいます。
こうした精度を吸収する為に存在するのが建具のチリなので、そこは意匠設計者としてもある程度許容していかないと建物は綺麗に仕上がりません。
もちろん施工者としてもいい加減に施工している訳ではないのですが、人の手で作業をしている以上、どうしても誤差というものが出てしまうんですよね。
□建具枠は鉄板を曲げて納めるので角が若干Rになる
これも結構細かい話になるのですが、鋼製建具枠というのは基本的に1.6mm程度の鉄板を曲げて作っていくものです。
図面の縮尺によって表現方法は異なって来ますが、非常に拡大した製作図レベルの図面では、枠の角は下図のような感じになります。
思ったよりもRが付いているな…と思ったかも知れませんが、実際にはこの程度のRが曲げの角では発生するものなんです。
先ほど紹介した施工精度の問題は無視して、施工誤差0でパーフェクトに納まった場合でも、建具枠と壁面との関係はこのような関係に。
これはどう見ても美しくないと思うし、間違いなくこのような感じに仕上がることになるので、施工者の立場としてチリ0mmでは絶対にOKしない理由も分かると思います。
□巾木を止める相手がいなくなる
どのような壁仕上げと巾木仕上げになっているかは部屋によって違うので、巾木の相手がいなくなるという表現が正しくない場合もありますが…
もし一般的な納まりであるビニル巾木であれば、1mm程度壁面に対して出っ張ってくることになるはずです。
その場合の巾木ラインを平面図に表現してみると下図のようになります。
チリ部分にぶつけて納めるはずの巾木ですが、相手がいないので巾木の小口が見えてしまう関係になってしまい、非常に見苦しい状況になっています。
建具のチリを0mmにする場合の問題点をざっとですが挙げてみました。
これらの問題点を全て許容して、それでもチリを0mmにしたいという要望があるのであれば、意匠設計者の要望として検討するしかありませんが…
最終的な見え方に配慮してチリを0mmにしたい、という話であれば、残念ながらその要望はかなり的外れと言えると思います。
全然スッキリとは見えないですから。
…と、文句みたいな話になるのも良くないので、まずは建具のチリがある程度は必要だという話をここではお伝えして話を終わりにしたいと思います。