建物をどのように造っていくのか、という方針を示す為には、平面図だけでは少し情報としては不足していて、断面図や立面図など高さ方向の情報も必要になってきます。
実際に建物を造る際に「これでは納まらない」となる原因は、大抵の場合高さ方向で何かが上手くいっていない時です。
平面図だけで納まっていない状況になることはほとんどなくて、大抵の場合は平面図では確認する事が出来ない高さ関係が原因になります。
例えば上階の梁が下階の天井に干渉して納まらないとか、あるいは床下地レベルを下げておきたい部分の梁が下がっていないとか。
そうした高さ関係で納まらない場合がほとんどになるので、断面図によって最低限の検証が必要になる、という話は前回説明した通りです。
今回紹介する矩計図(かなばかりず)は、断面図よりももう少し細かい表現をした断面図、というようなイメージになります。
断面図では建物全体を切って表現することが一般的になるので、あまり縮尺を細かくして詳細を表現することが難しい部分もあります。
とは言っても建物全体を切る断面図にはやはり存在価値があるのですが、そこで表現しきれない細かい部分については、矩計図で表現をしていく事になります。
矩計図は部分的にある程度拡大して作図するものですが、建物全体を表現するのは難しいというか不可能になってしまいます。
矩計図の目的はそこではなく、建物の一部分を各階通して断面図として表現する事が目的になり、それによってより緻密な検証が可能になります。
ちょっと言葉での説明だけでは足りないと思うので、ここで建物の同じ部分の断面図と矩計図を並べて見ると…
こんな関係になっているので、両者の違いがどのくらいあるのかがこれで感覚として分かるのではないかと思います。
こうしてある程度細かい部分まで表現をしていく事によって、設計図の内容に現実味があることを説明していく役割も矩計図にはあります。
設計図の内容に沿って建物を造っていく役割を持っている施工者としては、造ろうとしている建物の情報は多ければ多い程良いと考えます。
なぜなら、情報が多ければ多い程、設計者が建物をどのようなイメージで設計しているのか分かってくるはずですから。
と言うことで、施工者としてこの矩計図を本当にじっくりと見ていく事になって、それが平面図などの施工図にも反映されている事になります。
建物を細かい部分まで詳しく調べていき、実際に施工を進めようとすると、施工する為の情報としては矩計図では若干足りない事が分かります。
そう言った意味で、やはり施工者側で様々な施工をするための図面を作図することになる訳ですが…
そうした細かい施工図を作図する為には、やはり設計者がどのような思いで建物の方向性を考えているのかの情報が必要に。
断面図と同じ部位を切って表現してはいるものの、表現する図面の縮尺と用途が違うので、情報がダブってしまうことは基本的にありません。
と言うことで、ある程度細かい部分までの情報を矩計図には盛り込んでいく事になります。
プランなどが変更になった際には、整合させながら図面を修正していく必要があるので、業務として大変な事は間違いありません。
ただし、この矩計図で表現している内容はある程度細かいので、細かい部分までを設計図として表現することが出来るようになります。
建物についての表現が明確であればある程、建物として表現していく図面は少しずつ洗練されたものになっていく事に。
このように設計図は少しずつ図面のレベルが成長をしていく為、まずは矩計図で表現される部分をどのように納めたいか明確にしていく。
これが矩計図に与えられた役割という事になります。