設計図をベースにして施工の計画を立てていくのが施工者の役割であり、その計画によってそのプロジェクトが成功と言えるかどうかが決まってくる。
というような話を前回は取り上げました。
このあたりは施工者側の感覚で、設計者側の感覚では少し違っていて…
「そのプロジェクトが成功したかどうか」ということについて考えてみると、設計者がそうと感じるのは、恐らく完成した建物の見た目がイメージした通りに出来た時でしょう。
建物の使い勝手が良いとか悪いとか、意匠を優先しすぎて性能が少々犠牲になっているなどの問題があるかも知れませんが…
それは建物を運用してみないと分からない部分でもあるので、まずは見た目がイメージ通りになっているかが重要になってきます。
建物の見た目だけを優先させすぎてしまうと、建物の性能を確保しようとした場合に必要になってくる寸法が取れなくなってしまいがちです。
そうなると建物を運用していく中で少しずつ不具合が出てしまうような状況になるのですが、それは建物が竣工してすぐには分からないものなんです。
そうした事情もあり、設計者はどうしても完成時の見た目を優先していく傾向にあります。
設計者が見た目を優先させていくことについては、建物全体をデザインしているという役割がある中では、ある程度仕方がないことではないかと思います。
設計者がイメージした通りの建物が完成したのであれば、それは建物のデザインが優れているということで、設計者としては上手くいったと考えるのが当然です。
ただ、設計者の満足がそのまま施工者の満足につながる訳ではありません。
設計者が満足するようなデザインの優れた建物が出来上がったとしても、施工者はそれだけで成功したと感じることは出来ないんです。
では、施工者にとってプロジェクトが成功したと感じる要素は何なのか?
これは企業によって多少の違いがあるとは思いますが、基本的なところを考えてみると以下のようなものになってきます。
・決められた工期内に工事が完了する
・施主が喜ぶような高い品質の建物が出来た
・工事によって目標としていた利益率を確保出来た
設計者のイメージしている建物が出来たかどうか、デザイン的に優れた建物かどうか、という部分を施工者として重要視しない訳ではないのですが…
そうは言ってもやはり仕事ですから、出来上がった建物を見るだけで喜ぶ訳にはいかず、プロとして目に見える形で成果を出す必要があるんです。
分かりやすく目に見える形で出る成果というのは、簡単に言ってしまえお金、企業としての利益ということになります。
工期内にお客さんが喜ぶ建物を完成させる、というのは施工者として最低守らなければならない項目であり、その前提を満たした上で企業としては利益を出すことが求められます。
急にお金の話になってしまいましたが、建物を建てるというプロジェクトが趣味ではなく事業である以上、金銭的なことを抜きに考えることは出来ません。
施工者と施主が契約する際には請負金額というものがあり、その金額であれば工事が出来ますということで、最初から決められた予算がある訳です。
通常であればまずは商品をつくってそれに利益を載せて販売するという形をとりますが、建物の場合は商品をつくる前に販売金額を決めて契約することになります。
商品を作ったけれど売れない…という状況は避けることが出来ますが、最初に決めた予算では利益が出なかった…という状況は充分ありえるので、商品価格が大きい分だけリスクも大きいです。
検討が足りなかったり計画が悪かったりすると、施工のやり直しがたくさん発生することになって、少しずつ工事費が嵩んでくることになります。
しかしそうした経緯でかかったお金を施主に請求出来る訳ではなく、あらかじめ設計図を元に提出した見積もりの金額、要するに請負金額分しか予算はないんです。
その予算の中で設計図に記載されている内容の建物を完成させることが、施工者としてはまず第一の目標ということになるかと思います。
こうしたコストに関連する話は後ほどじっくりとしようと思っていますが、施工者はとにかくコストを意識した仕事の進め方をしていくことになります。